妻は相変わらず11月上旬からの意思疎通不可の状態が継続しているが、稀に話ができるタイミングがある。それが23日の夜中から24日の朝方にかけて運良く巡ってきたので、「今日はクリスマス・イブで○○(※○○は飼っていたネコの名前)の誕生日だからケーキでお祝いだよ」と言ったところ、「うん」と応えてくれた。
前々から、クリスマスにはハッピーセットとシャカチキ、それとクリスマスケーキでお祝いしようと言っていたので、お昼にハッピーセット、夕飯はピザとケーキということにした。朝早くに宅急便で冷凍されたケーキが届いた頃には、もう妻はまた元の妄想の中に戻ってしまっていて、チキンナゲットのハッピーセット+グラコロ+シャカチキを買って戻ると玄関こそ開けてくれたものの、話は通じず、それでも妻は笑いながらハッピーセットを食べていたので写真をパチリととっておいた。ナゲットのソースは、マスタードを頼んだはずなのだが、なぜか「夢のエビチリソース」と「贅沢チーズフォンデュソース」が付いていた。ラッキーだ。ハッピーセットをあらかた平らげると、妻はベッドに行きぐっすりと寝ていたようだ。このタイミングで私も仮眠をとった。
しばらくして私が起きてゴソゴソしていると妻も起きてきたのでピザとケーキを出してあげた。ピザはスーパーで売っているテリヤキチキンが乗った普通のやつだが、妻は楽しみにしていたようだ。チキンが乗っていたからかもしれない。ケーキにはケーキショップが「○○くんお誕生日おめでとう」というカードをつけてくれていたので、妻に渡したら食卓の脇に見えるように置いていた。
私はインターネットのYoutubeでクリスマス特集チャネルのクリスマスソングを流しつつ、せっせと食事を用意していたが、妻は出てきたものからむしゃむしゃと食べていた。メニューを全部書くと、テリヤキチキンピザ、前の日に妻が残した焼きそばUFOを取っておいたものと昼に妻が残したマックのポテトを温め直してハムとサラダを添えたオードブルっぽいもの、クリームチーズケーキ、シャンメリー、コーヒーだ。残り物で作ったオードブルっぽいものが、意外にも豪華に見えたのでよかった。
妻はこれらをものすごくゆっくりと、時間をかけて食べるので、私は途中でベッドに行ったが、朝方4時くらいに妻が「大都会」という歌の替え歌を声を張り上げて何度も何度も歌っていてうるさかったので、「黙れ〜!」と言いながら肩のあたりを数発パンチしたら静かになった。
・・・。
別にこの静かになった、というのはもちろん息の根が絶えた、という意味ではなく、本人もおそらく“怒られた”と思って静かになったのだと思うのだが、ここで一つ思う事がある。
統合失調症を持つ家族と暮らすということは、話が通じない、常識が通じない、思う通りにいかない、という事が非常に多く、それでいて介護や世話には手がかかり、世話する側の負担は、心理的にも肉体的にも非常に大きなものだ。そのため、私なども特に非常に疲れていて、風邪など引いていたり、体力の限界で死にそうなときなどには辛く当たってしまったり、手をあげてしまったりということもある。そういう極限状態にあるときに、病者本人から「死ねー!」などと言われることもあるので、怒りが爆発することもある。
しかし、やはり本人は統合失調症を患っていて療養しているのであり、こちら側はそれを介護しているので、当然配慮しなくてはならない立場だ。それ以前に愛情を持って接しなくてはならない。病者は、それに至った原因もあり、克服するためにも人一倍、愛情や楽しい時間を過ごし、楽しい経験をし、安心感、幸福感を感じながら過ごしたいのだと思うし、そうでなければ快方に向かうのも難しいのではないかとも感じる。
もちろん病人の世話をしているとはいえ、こちらも人間なのでコンディションもあるし、諸々の理由から完全に全てをこなすことなどできないとは思う。それでもやはり、できうる限り、最善の手を尽くし、後から後悔のないようにしたいと思っている。
なぜこう書いているかと言うと、ちょうどこのクリスマスに、両親によって10代後半から自宅の離れに監禁され、外から鍵をかけられ、33歳で亡くなった“精神を病んでいた”女性が発見されるという痛ましい事件があったからだ。別にうちのやり方が絶対だとか、優れているとか、そんなことを言うつもりはない。でも、なぜあの女性は両親によって骸骨同然になるまで何年も何年もあのようなひどい仕打ちを受けたのか。それがかわいそうで、残念でならないのだ。
おそらく10代後半の女性というと、難しい年頃で、両親が言うように、親に反抗してあばれたり、いうことを聞かないこともあったのだろう。だがそれは当たり前のことであって、しかも何かしら精神的な疾患があったのであれば、思った通りの反応がないなどと言うことも普通よりはあったのかもしれない。だが、それだからと言って、外側から鍵をかけて、水分はチューブで取らせ、冷暖房もない簡易トイレしかない部屋に閉じ込めてしまう必要があったのだろうか。
本人は、楽しいこともしたかったに違いない。夢もあったかもしれないし、本来ならば無限とも言えるような可能性を持っていたはずだ。10代後半から33歳まで閉じ込められた過酷な環境にも関わらず生き延びていたと言うことは、生き延びる意思がそれだけ強かった証拠ではないかと思う。障害があったならなおさら、人一倍それを癒すための愛情や楽しみなどが必要だったはずだ。それなのに、それを得ることはできず、寒さと飢えで苦しみながら、命の火が消えたのだろう。
せめて、天国で、自由に、楽しく、何不自由なく、幸せな日々を送れるように祈りたい。
そして、今私の傍にいて、ピザ屋の広告を見ながら、意味不明なことを延々と喋りながら時々笑っているこの妻に、誰よりも楽しく過ごして欲しいと思っている。まあたまには私も怒ることもあるし、なんでもかんでもやってもOKなどと言うことはないので、「ダメなことはだめ」と言うことも伝えなくてはならない。それはそうとしても、この病気になってしまった妻の心についた深い傷が少しでも癒えるよう、これからも頑張ろうと思う。
それから、妻以外のこの病気を持つ方々が、少しでもたくさんの楽しい時間を過ごせるよう願うばかりだ。
コメント
ちょくちょく読ませてもらっています。感動しました。お体大切に、ご自愛ください。
来年は今年より良い年でありますように。
相手から心無い言葉をぶつけられてしまうと、ついつい怒りをぶつけ返してしまうことはありますよね。
うちの妻も秋ぐらいから調子を崩していて、自分自身も仕事が忙しかったりと余裕が無くなって、まずは自分自身を立て直さなければと苦心しています。
とはいえども世間で暗いニュースが流れてくると、自分自身も落ち込んでしまいがちになります。
暗いニュースの流れない世の中になって欲しいと思います。
いつも気になって覗きに伺っています。
私も統合失調症で、主婦で、母親です。
今でこそ、家事はなんとかできるようになりましたが、
酷いときは夫に頼りきりでした。
夫は私を責めることもなく、仕事と家事をこなして
いました。
そんなことを思いだしました。
奥様と、楽しい思い出がたくさんできますように。
そして、ご自分が潰れてしまわないように
ご自愛ください。
お薬は全くうけつけないのですか?
薬を飲むのも有効な治療法だと思うのですが。
難しいのでしょうか。
ずいぶん前にコメントさせて頂いたものです。
今年の1月から3ヶ月、嫁が統合失調症で二度目の発症で入院していました。
今は少しの薬の服用で一見は元気に過ごしています。
でも完全に元通りというわけでもなく、
たまにその言動に頭にきてつい病気のことを忘れて怒ってしまいます。
ものすごく自己嫌悪に陥ります。
冬場は調子を落としやすいので少し神経質になっています。
おふたりに穏やかな新年が来ますように願っています。
楽しいクリスマスイヴになったみたいで良かったーと、読み進めていたら、
最後のschizoさんの想いに、涙…。
でも、心の病気は伝染するそうなので無理しないでください。
2018年、お二人に幸せが降りそそぎますように…。
来年もよろしくお願い致します。
るんるんさん
このブログにちょくちょくおいでいただきましてありがとうございます。
色々と物騒だったり悲しい事件が多い昨今ですが、皆さんが少しずつでもよくなっていくよう、祈りつつ過ごしていきたいと思います。
Takemanさん
うちの妻もそうなのですが、秋から冬にかけてどうも調子が悪いことが多いようです。Takemanさんもご自分のお身体を大事にしつつ、のんびりとした気持ちで奥様に接することができるような状況になるといいですね。難しいですけれども頑張りましょう。うちも四苦八苦ですけれども。良いニュースばかりになるといいですよね。
けめこさん
統合失調症で主婦で母親!すごいです。素敵な旦那様の支えがあればこそと思いますが、素晴らしいことですね。正直私はけめこさんの旦那様に比べれば駄目な夫だと反省しています。そうは言っても、子供も欲しいなあと思ったり、多くを望むのは罰当たりかと思ったりしつつ過ごしております。まずは楽しい思い出をたくさん作ることですね。頑張ります。薬はかつてはたくさん処方されて真面目に飲んでいたのですが、ひどい副作用以降、怖がってしまい受け付けないようになっています。なんとかよくなってくれると良いのですが・・・。2018年が皆様にとって良い年になるよう祈っております。
ぺーさん
お久しぶりです。奥様は今は退院されてお元気で過ごされていると言うことでよかったです。難しい病気ですので、完全に元どおりというのはなかなか厳しいんでしょうね。うちの妻も性格の根幹部分に面影はあるものの、完全に別人のようになっています。私も怒ってしまうこともありますが、よく笑うこともあるので、差し引きでちょっとだけプラスになればいいか、と無理やり自分を納得させようとする日々です。ペーさんもあまりご自身を責めず、気持ちを少しでも軽く持って過ごしていただけるよう願っております。冬場はどうも調子が崩れがちなのはうちも同じかもしれません。ペーさんと奥様にとっても穏やかな2018年になりますように。
Kiraraさん
心の病気、伝染するんですか!まずいですね、妻と二人で、私まで妻のような症状になってしまったら我が家は終わりです。なんとかうつされないよう頑張ってはいますが、やはりおっしゃる通り多大なる影響を受けてしまうので、私自身も鬱になってしまうことは多いです。介護鬱というやつでしょうか。先の光が見えない中、過去の介護の年月はずっしりとのしかかってきて、気持ちが落ち込みがちではありますが、小さなものでも良さそうなものや楽しみなどを見つけて、水面にかろうじて顔を出しつつ最低限の息継ぎができるよう頑張ろうと思います。2018年がKiraraさんにとっても良い年になりますように。