新しい年が始まって、はや1ヶ月が過ぎた。
前々回のお出かけに関しての投稿「幸せな一日」で、ほとんど会話なしにコミュニケーションを取っているというような内容のことを書いた。今回は、ここ最近のコミュニケーションについて記しておきたいと思う。
まず大きな変化として、妻が通販で買った”こうかんノート”でのやりとりが始まった。これは、よく小学生たちがやるようなものと同じだと思うが、こうかんノートの最初に「メンバー紹介」というのがあって、名前や血液型、誕生日などを書く欄がある。四人分メンバー欄があるが、うちでは妻と私の二人だけだ。次に「メンバーに100の質問」というコーナーがあって、好きな食べ物は?とか趣味は?など一言質問が100個並んでいる。その後にその日の担当ページがあって、一人ずつ日記かメッセージのようなものと、「みんなに質問!」というコーナー、「イラストしりとり」、「なんちゃらベスト3」といったコーナーがあって、次の担当は誰々だよ、と続く。
このこうかんノートの「メンバーに100の質問」で、私は初めて妻の一番好きな食べ物や、一番好きなラーメンを知ることができた。一番好きな食べ物はグラタンで、一番好きなラーメンはとんこつラーメンだった。というわけで、最近はこの二つの料理を、といっても即席なのだが、よく出すようにしている。
その他の主なコミュニケーションの手段は、スマホのメールと時々くれる手紙やカードだ。手紙やカードについては、もしかしたら既に妻の中では”こうかんノート”に置き換わっているかもしれない。年賀状以来もらっていないので。
スマホのメールをくれるタイミングは、朝、昼、夜、寝る前だ。すべて調子が良い時のみ送ってくれるのだが、寝る前を除いて、ほぼご飯の催促のような意味合いがあると私は思っている。なぜならちょうど各ご飯の30分〜15分前にメールを送ってくるからだ。
すべてのメールが顔文字つき。私の名前の後に顔文字(多分私の顔)、そして”やあ”などの一言メッセージ、最後に猫の絵だ。寝る前のメールは、私の名前の後に顔文字、そして”おやすみ”の後に猫の絵、最後にz文字のついた顔文字だ。
以上、全部文字ベースのコミュニケーションだが、じゃあ会話はしないのか?というとそうでもなくて、若干の言葉による会話はある。ただ、健常者というか、普通のこのくらいの年齢の大人としての会話とは全く異なっている。
まず、すべての私からの質問に対して”言葉で”回答や反応があるわけではなく、表情の微妙な変化だけの時もあるし、時には、いやむしろほとんどのの場合、全く反応がない。なので、傍目には旦那が一人で奥さんにたくさん話しかけているように見えるだろうと思う。
簡単な質問や、妻の興味があることには「うん」などの反応が返ってくることがある。例えば「キティーちゃんの雛あられが買えて良かったな!」というと「うん!」と返事があったり。その他、ゲームの福引ですごくいいものが当たったようなので、何が当たったのか聞いてみたら、無言のまま、ただただ猫のぬいぐるみの両手を持って踊らせる、とか。お掃除を頑張っているようなので、「お掃除頑張ってるな!」と言っても、ただただ無心にゴシゴシこすっているとか。
でも何の反応もないわけではなく、例えば「お昼何が食べたい?」と質問して、ずっと何も反応がないからといって、妻に何の希望もないというわけではなく、しばらく待っているとテーブルの上に食べたいスバゲティーのソース(混ぜるだけみたいなもの)が置いてあったりなど、何かしらの反応があったりする。
私は介護生活が始まった最初の頃、このような反応に変わったことに気づかず(いやむしろ受け入れられなかったか、全く理解できなかったのかもしれないが)、なぜこちらの質問に対して何らかの反応や回答がないのか訳がわからなかったが、妻は妻なりのやり方で、実は反応していたのかもしれない。もちろん今の方が症状が落ち着いていることが多く、日常生活も変わってきてはいるのだが。
思い起こせば、今の家に引っ越してきた当初の妻は、お腹が空いた場合、高さ1mくらいの食器棚の下部の戸棚やら冷蔵庫を開けて、じっと食べ物を覗き込んでいるだけだった。もしくは食卓の椅子に足のひらごと乗っかって、椅子の上で膝を抱えてただただ食べ物が出てくるのを待っていた。
それが今では食事時間の少し前にメールをくれたり、たまには戸棚から何やらレトルト食品などを持ってきて私に見せたりして催促してきたりする。そう考えると、意思表示の仕方も、コミュニケーションの内容も、初期の頃に比べると格段に進歩しているのではないかと思う。
もちろん調子の悪い時、症状が悪化している時などは今でも全くと言っていいほどコミュニケーションはとれないが、これからも妻の調子の良い時には、穏やかな感じで、ゆっくりでもいいから、内容の良いコミュニケーションを取っていきたいと思っている。