(2010年7月末)
妻のわけのわからない行動は、どんどん増えていった。
家で寝ていると、夜中に家を抜け出して、朝方いないことに気づき、外に探しに行ってみると、パジャマのままマンションの敷地内でうろうろとしている妻を見つけ、近づくと悲鳴を上げた。かまわずもっと近づくと、私であることがわかったらしく、近づいてきたので安心したが(妻は極度の近眼なのにメガネ無しで歩いていた)。その日は、結婚指輪を両方(妻の分と私の分)指にはめたまま夜中にでかけていたらしく、私の分は指から抜け落ちて無くなっていた。この指輪は、ずいぶん探しても見つからなかったが、数ヵ月後にマンションの1階の掲示板に押しピンで引っ掛けてあった。どなたか、拾ってくれたのだろう。
後で聞くと、妻は「私だって一人で歩きたいこともある」と言っていたのだが、何も真夜中にパジャマで歩かなくても、と思った。
別の日、また夜中に妻がいないことに気づき、夜中探したが見つからず、朝になって警察から電話がかかってきて、奥さんを保護しているが、どうしますか?というので、家までパトカーで送ってもらったり。後で妻になんで警察に保護されていたのか聞いたところ、外に出たが、家に帰ろうとして玄関のチャイムを押したら、違う家のチャイムだったらしく、警察に通報された、とのこと・・・。夜中に、知らない人がチャイムを押し続けていたら、普通の人は相当恐いと思う。
その他、夜中、私が寝ている間に窓を開けて、夜中ずっとベランダをうろうろ行き来しながら朝まで一人で喋り続ける、というのは恒例のことだった。
夜中にいないことに気づく、というパターンが多いが、これはすでに初期の頃から妻が殆ど眠らない状態が続いていて、私も頑張って起きてはいるが、ついに眠くなって眠ってしまった隙に妻が徘徊する、ということが多かったから。
まだまだある。一緒に買い物に行ったところ、妻は歩くのがかなり遅いので、少し後ろを歩くのだが、ふと振り向くと妻がいない。私はまた必死に探し、いないので家に帰ったのかと思い、戻ってみるといない。しょうがないので自転車を出して町をぐるぐる探し回ったが、みつからず。しかたなく交番に届け出た。連絡はなかった、何時間も・・・。
するとまた警察から電話。奥さんがとあるレストランで一人で座っておられますので迎えに来てくださいと。行ってみると、レストランのカウンターあたりでうろうろして店長に見守られている妻がいた。
歩いている途中で何か飲みたくなったり食べたくなったのか?それなら言ってくれればいいのに。それにしても何かほしくて、途中でレストランに入ったのだろうから、そのままレストランで注文して食べることにした。
(ずいぶん後で気づいたが、妻は今でも調子があまりよくないときは口から言葉が出ない。それでも行動で意思表示している。例えば、歩いていてのどが渇いたら自販機の前に行きジュースをながめる、外でおなかがすいたらレストランの前で立ち止まる、家の中でおなかがすいたら食卓でスタンバイする、など。)
こんな話が他にも大小何個もあり、すっかり近くの交番のお巡りさんとも顔見知りになってしまい1ヶ月も経った頃、これはまずいな、もう限界だ、これ以上会社にも迷惑をかけられないし、妻を放っておくわけにもいかないと考え、ずっと有給を使って休んでいた会社に、退職を申し出た。